Polyhedron

フットボールと天鳳と、時々アンダーグラウンド。

白い悪魔

昔、初めてニューヨークに行った時に、
ヤンキースタジアムで野球を観戦した。

対戦カードはヤンキースVSマリナーズ。
イチローはもちろん、まだ伊良部もいなかった頃だ。
マリナーズには、スーパースターだったケン・グリフィーJr.がいた。

ヤンキースタジアムは
平日でも2~3万人くらいは確実に入るのだけれど
そのほとんどがヤンキースファンだから
その雰囲気は、アウェーのチームにとっては
相当なプレッシャーになるようだ。

実はその日、僕が観にいった時の試合で、
ノーヒットノーランが達成されたのだ。
今、記録を紐解くと、その日は1996年5月14日とある。
達成した投手は、ドワイト・グッデン。当時31歳。

この投手、実はものすごい早熟の天才で
若くしてメジャーを席巻した。
デビューは同じニューヨークに本拠を構えるメッツ。

デビュー以来3年連続で200奪三振を超えて、
最多勝、サイヤング賞などのタイトルを総なめにし、
付いたニックネームが「ドク=ドクターK」だった。

今でこそドクターKというニックネームはたくさんいるが、
当時のグッデンの凄さに匹敵するのは
最盛期の野茂でも難しいかもしれない。

ところが、そのあまりの早熟さが故に
グッデンは、ドラッグやアルコールに溺れていく。
マイク・タイソンなどにも共通した、
若くして栄光を掴んだ人間にありがちな転落劇かもしれない。

そしてグッデンは、メッツを解雇され、
あれほど愛されたニューヨークからも見放され
1995年には一度もマウンドに立つこと無く
1996年にほとんど拾われるような形でヤンキースに入った。

「もう終わった投手」
「ポン中に何ができるか」

ほとんどのメディアはそういう論調だった。
ところが、グッデンは与えられたチャンスをモノにし、
ローテーションの一角を担うようになる。

当時のヤンキースは、低迷期から脱しかかっていた時期でもあり、
僕は楽しみに球場に向かった。
メジャーのローテーションはほとんど固定されているから
先発がグッデンということも予想できていたし、
アメリカに行って間もない頃の僕が
言葉の問題抜きに楽しめるのはスポーツ観戦くらいだったのだ。

学校が長引いてしまい、
試合開始から少し遅れて球場に着いた僕の目に
最初に飛び込んできたのは
1回の表、ヤンキースのセンターが大飛球を背走しながら好捕し、
球場が大歓声に包まれている瞬間だった。

その時は、その後の展開は
誰も予想してなどいなかっただろう。

そして6回くらいから、球場の雰囲気は変わる。
グッデンが一つアウトを重ねるごとに、
その雰囲気は重苦しさと熱狂を孕み、
8回くらいからあちことで小爆発のように破裂していった。

僕の席は3塁側の前列から15番ほど入った席で
ちょうど3塁塁審の背中が見える位置だった。

9回の表、二死2・3塁から
高く打ちあがったショートフライ。
売り出し中だったデレック・ジーターが
(今のヤンキースのキャプテンだ。
もちろん全米のスーパースター)
それを僕らの目の前で捕った時の球場の雰囲気を
僕は今でも覚えている。

歓喜が爆発するというのは
ああいうことなのだろうという実感があった。

ポップコーンやビールが入ったコップが
2階席からバラバラと降ってきて
誰彼かまわず抱き合い、雄たけびを上げていた。
僕も隣にいた観客とハイタッチなどしていた。

チームメートに肩車されたグッデンに対して送られたのは、
混じり気無し、100%のスタンディングオベーションだった。

帽子を取って歓声に応えるグッデン。

僕が今まで数多く見たスポーツの中で、
それは最高のシーンの一つだったと思う。

それほどまでに暖かな歓声を受けたにもかかわらず、
グッデンは再びドラッグに溺れてしまう。
そして彼は、いつの間にか野球界から消えていった。

あの歓声に包まれることよりも、
あの空間に身を置くことよりも、
もっと大きな快楽があったのだろうか。

それを思い起こすと、溜息しか出ない。
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Author:omoteura
天鳳で日夜遊ぶ柏レイソルサポーター。

天鳳(鳳凰卓東風戦)の段位は現在八段。

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