Polyhedron

フットボールと天鳳と、時々アンダーグラウンド。

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The Outcasts 外伝~Nobody but she told me.

昔、まだ十代の頃、雀荘で働いたことがある。

いろんな意味で、結構キツい仕事なんだという感想は
その時から持つようになってはいたのだけれど
良かった点の一つに、寮があった、ということがある。

家出のような形で実家を飛び出した僕に
部屋を貸してくれるような不動産屋などいるはずもなく
(というか、敷金礼金といった当座の経費さえ持っていなかったし
まして保証人なんてものもいなかった)
僕は食い扶持を稼ぐために少しばかり事情を知っていた雀荘を選んだ。

寮と賄いがあるということだけは知っていたのだ。

とは言え、4人で一つの物件(2DKだか2LDKだかだった)を使う上に
先輩メンバーにやたらとこき使われた僕は
誰かに一度だけ連れて行ってもらったサウナに時々逃げるように泊まった。

風呂があって、横になれるスペースがあるだけで
当時の僕には十分だった。

そして、その後に僕は大学に進学して
大学3年の頃からカジノディーラーとして働き始めた。

フロムAのような求人誌に掲載されていたこともあって
割と気軽に入り込んでしまったような気はするが
結局の所、まぁ自己責任だ。

カジノで働くうちにあちこちの繁華街をうろつくようになった僕は、
歌舞伎町の雀荘でサトコと出会った。

当時、サトコは40前後だっただろうか。
今の僕と同じくらいの年代に見えた。

サトコは、女性にありがちな手に溺れるようなこともなく
押し引きのしっかりした打ち手だったのだけれど
それもそのはず、サトコは性別でいえば男だったのだ。

最初に同卓した時から、声色などに違和感を感じてはいたけれど
はっきりそれを知ったのは、ある日、卓割れした店内での雑談だった。

「お酒呑みに行ったりするの?
良かったらアタシんとこにもおいでなさいよ、安くしとくから」

一人卓に残った僕に、店の名刺を渡してサトコは言った。
すると店長が

「またそうやって若い男捕まえようとか思ってんの?」

などと茶化し、サトコは

「ノンケの子もたまにはいいもんよ」

などと言い返した。
それで僕は、サトコがオカマであることを知ったのだ。

とは言え、サトコと同じように夜の世界で働いていた上に
それほど酒が好きでもない僕が
学校と仕事の合間を縫って呑みに行く機会は無かった。

けれどサトコはそんなことを気にする様子も無く
雀荘で時折出くわすと、気軽に話しかけてきた。
昔はカジノ遊びも相当したらしく、話題も豊富なサトコは
最初から僕にとっては話しやすい相手ではあったように思う。

そんなある日、大学のサークルで飲み会があった。

その日の飲み会は、前期の試験が終わった直後の納会という名目だった。

夏休み直前という開放感もあったせいもあったし
当時はまだ一気飲みのようなことも普通に行われていたので
飲み会が終わる頃には何人かの飲み慣れない人間が潰れていた。

「先輩、A子ちゃんがどこか行っちゃったんです」

酔って騒いでいるうちに、姿を見失ったのだろう、
一人の女子大生(B子としよう)が言ってきた。
同じ大学ではなく、どこかの女子大に通っていた子だった。

ノリが良くやたらとしゃべる子だったように記憶していたが
宴会中の様子とは違って、やけに不安げだった。

「トイレとかは探した?」

僕がそういうとB子はすぐにトイレへと行った。
そしてしばらくして戻ってくると

「一つだけ鍵がかかってて呼んでもずっと出てこないんです」

と小声で言ってきた。

「鍵がかかってるんじゃ起きるまで待ってないとダメじゃんか」

僕がそう呟くとB子は

「でももう飲み会終わりですよね、どうしよう。
先輩ちょっと来てください」

そう頼んできた。
正直に言うと、A子という女の子がどんな子なのか
僕には全く印象が残っていなかった。
多分席も離れていたし、話もしなかったのだろう。

(めんどくさいなぁ・・・)

心の中ではそう思ってはいたのだけれど
一応宴席では先輩風を吹かせていたわけだから
邪険にすることもできず僕は女子トイレまで向かった。

B子は再びトイレに入って、鍵がかかっている個室に向かって
何度もノックをしたり声をかけたりしていたけれど
中からは何の反応も無い。

トイレから出てきたB子は思いがけないことを言い出した。

「今、トイレの中誰もいないんで、
先輩、中に入って上の隙間から見てください。
あたしじゃ届かないけど先輩の身長なら届きますから」

「ちょ、ちょっと待てよ。女子トイレの中に入るのか?
別の人が入ってたらどうすんだよ」

僕が慌ててそう言うと、B子は

「A子しかいないですよ、絶対。
先輩しか頼む人いないんです。お願いします。
周りの皆には黙ってますから。
あ、あたしここで人が入ってこないように見てます」

とすがるような表情で言う。
仕方なく僕は女子トイレの中に入って
鍵のかかっている個室を何度かノックして声をかけてから
上の隙間に手をかけて、中を覗き込んだ。

「あちゃー・・・潰れてるわ・・」

あられもない下着姿でA子と思しき女の子が酔い潰れていた。
顔ははっきりとは見えなかったけれど、服装には見覚えはあった。
そして僕は一旦トイレの外に出て、B子にそう伝えた。
(あられもない姿だったことはもちろん省いた)

B子は即座に言った。

「先輩、上から入って鍵開けて連れてきてください」

その時点では薄々予想は出来ていたので
僕はもう半ばヤケクソで頷き、
女子トイレの個室の上から個室に侵入するという変質者的な行為を
誰かに見咎められた時に正当化する理屈を
少し酔った頭で必死に構築しながら取り掛かった。

(これはこの子の友人に依頼されて仕方なく、
いや、それじゃダメだ。依頼なら何でもするのかってなっちまう。
緊急避難であって違法性が阻却されるって言えばいいのか?
明らかに正当防衛ではないよな。あれ、緊急避難の要件ってなんだっけ?)

真面目に勉強しておけば良かったのだけれど
その時はそんなことを考える暇は無い。
行為自体はあっという間に終わることだ。

僕は個室へと降りると、A子の衣服を整えてやり
A子を背中におぶって個室の鍵を開けて外に出た。

「吐いた形跡はあるけど後は大丈夫?」

一刻も早くその場から立ち去りたい一心で
僕は建前丸出しでB子に尋ねる。

もちろん解放されるはずも無かった。

「あたし一人じゃ連れて帰れないです・・・。
先輩お願いします。新宿からなら一本ですから」

B子は泣きそうな顔でそう言う。
帰ろうと思っていた僕は、A子をおぶったままため息をついた。

「一本ってどこよ?」

「狛江です。あたしん家豪徳寺なんで途中まで一緒に行きますから」

「・・・俺小田急線じゃないんだけど」

「この時間ならまだ上りもあるから大丈夫ですよ。
それに、頼めそうなの先輩しかいないんです・・」

確かに時刻はまだ11時を少し回ったくらいで
狛江まで行って帰ってくることは別に不可能ではなかった。

(嫌だって言ったら悪者になるの俺なんだよな・・)

世の中って理不尽だなと思いつつも
僕はもう諦めの境地で頷いて駅の方向へ歩き出した。

歌舞伎町から小田急線の駅まではかなり距離があって
僕は汗だくになりながらもA子をおぶって歩いた。
唯一の救いと言えば、歌舞伎町には同じような酔っ払いが大勢いて
女の子をおぶって歩く僕の姿は特に異様ではなかったことくらいだった。

ところが。

「うわっ、また吐いた」

歩いているうちに、振動で状態が変わったのか、
A子は酔い潰れたまま嘔吐したのだ。

肩口にあったA子の口から、
微量ではあったけれど胃液のようなものが流れ出て
僕の着ていたTシャツを部分的にオレンジ色に染めた。

(何この臭い・・マジかよ・・これ着たまま帰るのか・・)

混みあった小田急線の中で、異臭を放つ僕。
そして潰れたままのA子。泣きたい気分だった。

豪徳寺まで来ると、B子はA子のバッグから学生手帳を取り出して
A子の住所を書き写すと、僕にそれを渡して

「じゃ、後はお願いします。変なことしちゃダメですよ。
後でA子の家に電話しますから」

といって降りていってしまった。
普通一緒について来るもんだろうと思いながらも
いちいちそういうことを言うのが面倒で
僕は曖昧に頷いてB子と別れた。

電車が狛江に着き、僕はタクシーを拾って
A子の住所を告げる。
ものの数分でA子の家には着いた。

表札を確かめて、呼び鈴を鳴らす。
すぐにA子の母親らしき人物が出てきた。

「あ、夜分にすいません。A子さんと飲み会で一緒だったんですが
A子さん、少し飲み過ぎたみたいで・・」

僕がそう言うと、母親は

「まぁいやだ、この子ったら。ちょっとここまで上げてください」

と言い、僕は玄関先までA子を連れて行き、
A子をそこに横たえて帰ろうとした。

すると。

「ちょっと待ってください」

母親は短くそう言うと、家の奥へ引っ込んだ。

(あれ、車代でもくれるのかな)

僕は心の中で少し期待して、母親の戻ってくるのを待った。
母親はすぐに戻ってきた。
毛布と、なにやら紙のようなものを持って。

母親はA子に毛布を掛けると、僕の方を向いて言った。

「あなたお名前は?学校はどちら?」

少し詰問口調なのが気になったけれど
もちろん僕は正直に答えた。

「W大学法学部3年のOです」

母親はそれを紙に書き留めると、
今度ははっきり詰問口調で言葉を続ける。

「何でこんなになるまで飲ませたんですか?」

「は?」

「年頃の娘にこんなに飲ませて何かあったらどうするんですか」

「いや、僕が飲ませたわけじゃ・・」

「A子は普段お酒なんて飲まないんです。
誰かが無理に勧めなければ飲むはずないじゃないですか」

「・・・」

叫び出したかった。
いっそ大声で怒鳴り散らして
啖呵の一つも切れたらどんなにすっきりしただろう。

(ふざけんな、お前の娘が勝手に飲んで勝手に潰れたんだろ!
パンツ丸出しで便器抱えて潰れてるの背負って
俺はわざわざここまで連れてきてやったんだぞ!)

けれど、そうするにはあまりに僕は疲弊していて
(そもそも疲弊していなくても、僕は女性にあまり怒鳴れない)
その後15分くらい、僕はA子の母親に小言を言われ続けた。
タクシー代なんてもちろん寄越さなかった。

狛江の駅までとぼとぼと歩き、上りの列車を待つ。
辛うじて、最終の上り列車のある時刻だった。

新宿駅に着き、僕は再び歌舞伎町へと向かった。
もしかしたら、まだギリギリ部屋に帰れる時間だったのかもしれなかったが
汗と酒と他人の胃液の入り混じった臭いが着いた服を、
僕はこれ以上着ていたくなかった。

目に付いたサウナに飛び込む。
体を綺麗に洗い流してさっぱりしたかったし
サウナであれば、Tシャツなどの物販もある。

朝まで寝てから帰ろう、そう思っていた。

一風呂浴びて、ようやくさっぱりした気分になる。
深夜のサウナは結構混雑しているが
横になれるスペースを見つけて横になる。

(今日は散々だったな・・)

そんなことを思い返しているうちに
いつの間にか僕は眠ってしまっていた。

(・・・ん?)

何時だっただろうか、何かの気配を感じて
僕はふと目を開けた。

すると誰か僕の顔を見下ろしているではないか。

(・・え!何?誰?知り合いかな・・?)

眠気の取れない頭で思考する間もなく、
そこにいた誰かは、僕が目を開けたことに気づくや
さっとその場を離れていってしまった。

(あれ・・気のせいだったかな・・
まあいいや・・眠いよ・・)

僕は再び眠りの底へと沈んでいった。

(・・・?)

しばらくして、今度は下腹部で誰かの手が動くのに気づいた。
手が当たらないように寝返りを打とうとした瞬間、
その手はさっと引っ込んでいった。

(寝相の悪い人がいるんだな・・)

などと思って、僕は暢気にうとうとと浅い眠りを続けていたのだけれど
しばらくすると、手の主はまた僕の下腹部へと手を伸ばしてきて
僕の股間をまさぐってくるではないか。

どう考えても、それは偶然当たったような動きではなく
ある意思を持って動いていた。

そこに至って僕はようやく深刻な事態に気がついた。

(これはわざとだ!こいつはゲイなんだ!)

眠気はいっぺんに吹き飛んだ。
僕は飛び起きて急いで服を着替えてサウナの外に飛び出した。
蒸し暑い夜だったけれど、衝撃で体が震えていた。

それまで同性愛者に嫌悪感は無かったはずなのに
(というか、そもそも好悪を判断するような接点が無かった)
無理やり痴漢のようなことをされたショックは大きかった。

僕はコマ劇場の前に腰掛けて、そのまま始発を待った。
漫画喫茶のようなものは当時は無かったし
雀荘などに行って誰かと話す気分にはなれなかったのだ。

翌日、ディーラーの仕事をしに、カジノに行って
店の店長に僕はぼやいた。

「いや、昨日サウナでえらい目に遭いましたよ・・」

僕が前日の出来事を話すと、店長は大笑いして

「それどこのサウナに行ったんだよwww」

などと尋ねてくる。

「いや、コマ劇の近くのFっていうとこですけど・・」

「えwwwふwwwあそこハッテン場www
お前知らなかったのかwww」

詳しく話を聞くと、歌舞伎町にあるサウナのうち
僕が入ったFと近くにあるOというサウナは
そっちの気がある人の溜まり場なんだという。

「マジですか・・orz」

落ち込む僕を尻目に店長は嬉しそうに他の黒服にそのことを教え
僕はその日ずっと、みんなのからかわれる羽目になった。

「ホモくん、次30バラねww」
「店ではハッテンしないでねwww」

まだ二十歳そこそこの、僕の可哀想な自我は
その一両日でズタズタに切り裂かれた。
帰る間、真剣に店を辞めようかと悩んだくらいだった。

ところが、悲劇はそれだけでは終わらなかった。

翌日、僕が学校に行き、サークルの溜まり場に顔を出すと
友人の一人がニヤニヤしながら僕に呼びかけてきた。

「ようヘンタイ、合宿の日程聞いたか?」

「は?ヘンタイって何だよ」

「とぼけちゃってwww居酒屋の女子トイレ覗いたんだろ?」

「誤解だって。覗いてねぇよ。あれはB子に頼まれて・・」

「またまたwwB子はそんなこと言ってなかったぜ。
お前が女子トイレ覗いてA子見つけたって」

僕の脳裏にB子の調子の良い話し方が蘇った。
その場を盛り上げようと、B子はあることないこと織り交ぜて話したのだろう。
適当に事実を並び替えたり、適当に脚色、あるいは端折ったり。

(何だよ、B子のやつペラペラいい加減なこと喋りやがって
黙ってるって言ったじゃねえかよ)

僕は一瞬むきになって反論しかけたが
すぐに馬鹿馬鹿しくなって思いとどまった。
反論すればするだけ面白おかしく囃されるし、
言いたい奴には言わせておけばいいのだ。

僕は連絡ノートに書かれた合宿の日程だけチェックすると
すぐにその場を離れた。
僕をからかってきた友人が何かを言いたそうにしていたけれど
そっぽを向いて通り過ぎた。

幸いこれから長い夏休みだ。
夏休みの後半にある合宿の頃には
ほとんどの人間はそんな事件など忘れているだろう。

(店ではホモ、学校ではヘンタイか・・)

そう考えると急にやるせなくなった僕は
ふと、サトコのことを思い出した。
サトコはなんて言うだろう。

僕は財布の奥からサトコのくれた名刺を引っ張り出して
深夜にサトコの店へ行った。
店に入るとすぐにサトコと目が合った。

「あら、どうしたの。珍しいこともあるもんねえ」

そう言いながらサトコが席へと導く。
10人も入ればいっぱいになってしまうくらいの小さな店には
サトコの他に、女の子(と言えばいいのだろうか)が3人ほどいた。

「何呑む?ビール?」

曖昧に頷く僕に、サトコが尋ねてくる。

「それで?今日はどうしたの?
もしかして目覚めちゃった?」

苦笑いしながらそれを否定して、
僕は自分の身に起こった悲劇についてサトコに話した。
サトコはそれに頷きながら聞いていたけれど
僕の話が終わると、小さなため息をついて言った。

「あらまぁ、それは災難だったわね。
でもね、男にもいろんな男がいるし、女にもいろんな女がいるでしょ。
オカマだって同じなの。基本的にはおとなしいんだけど
中にはそうやって襲っちゃうのもいるわけ」

グラスの水滴を拭き、氷を足してウィスキーを注ぎながらサトコは続けた。

「アンタは優しいのよね。だからそうやって傷つくこともあんのよ。
それはすごくいいこと。でもアンタがあの世界で生きていくなら
アンタはもうちょっと強くならないとね」

そしてサトコは横にいる女の子にこう言った。

「でも、そういう男に女は弱いのよねえ・・
ってやだ、アタシ女じゃなかったわwww
アンタもそこはすぐ突っ込まないとダメじゃない」

場に笑いが巻き起こり、空気が変わった。
僕はその日、サトコや店の女の子と馬鹿話をして朝まで笑い転げた。
息が苦しくなって、涙が出てくるくらい笑ったと思う。

店を出る頃には、僕はすっかり元気になって、
すでに明るくなっていた通りで、
タクシーを拾おうとしているサトコにこう言った。

「ありがとうございました。すごく楽になった」

サトコは笑って手を振りながら

「アンタが早くタクシー乗ってくれないと
アタシこの化粧のはげた酷い顔でずっと外にいなくちゃいけないんだけど」

と答えた。

それからというもの、僕は時々サトコの店に行くようになった。
ディーラーから黒服になって、黒服からさらに上のポジションに上がっても
サトコはいつも学生相手のような金額しか僕から取らなかった。

「アンタがもっと偉くなって、強くてかっこいい男になったらいっぱいもらうわよ」

人情の機微に通じ、ユーモアのセンスに溢れた彼女たちの会話から
僕は実にいろいろなことを学んだと思う。

誰かがボケればすかさず突っ込み、時には突っ込みやすくボケる。
時に自分をネタにしても、場の空気を盛り上げる。
真似ができないなと思わされることも何度もあった。

「役回りってあんのよ、誰にだって。
アタシたちはここで馬鹿やるのが役回りなの。
ずっと通ってくる客もいれば、通り過ぎていっちゃう客もいて。
水商売ってのはそれを見続けるのが役目みたいなもんなの。
アンタだってアンタの役回りがいろいろあんでしょ?
何もかもぜーんぶほっぽり出すか、その役回りをこなすしかないのよ」

店が終わった後、一緒に麻雀をしながら
(オカマ3人に囲まれたセット、というのはなかなか貴重な体験だった)
たまに僕が愚痴のようなことを言うと
サトコはそう言って、次には必ず

「ここはアンタが振り込む役回りなんだから!早くフんなさいよ!」

などと言って笑いを取った。

それは本当に楽しい時間だったのだけれど
それが楽しいものであればあるほど、
店を出た後に、僕は決まって切なくなった。

あるいはそれは、一過性の場であることが
誰にとっても分かっていたからだろうか。

面白うて、やがて悲しき・・・

そんな形容がぴったりの場だった。

実は、サトコは、もういない。
体を壊して入院したという話を聞いた数ヶ月後には
この世の人ではなくなっていた。ガンだったという。

告別式の会場だという落合の斎場へ僕が行くと
店の女の子と数人の客しかいない寂しい葬儀が行われていた。
サトコの身内は葬儀に出席することを拒んだという。

僕が喪主を務めていたチーママに挨拶をすると
彼女は

「サトコさん、アンタのことホント可愛がってたのよ。
アングラの世界であんな子めったにいないって。
幸せになりなさいね。頑張るのよ」

と僕に言った。

途端に、涙が溢れてきて止まらなくなった。
僕は斎場の白黒のテントの脇で、しばらく嗚咽した。

「後になっちゃえばね、だいたいみんな笑い話よ」

サトコはよくそう言っていた。
嫌なこと、悪いことがあった時ほど。

サトコさん、僕は偉くも強くもなれなかったけれど、
その言葉だけは、身についたような気はするよ。
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Author:omoteura
天鳳で日夜遊ぶ柏レイソルサポーター。

天鳳(鳳凰卓東風戦)の段位は現在八段。

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