Polyhedron

フットボールと天鳳と、時々アンダーグラウンド。

The Outcasts 外伝~An unidentified woman vol.4~

そのホームレスは老人と言ってもいいくらいの
一際小柄な女性だった。

あまり他のホームレスとは交流がないのか、
その老女は独りでいることが多かったけれど
毎日弁当を配って回るのがだんだん面倒になったのもあって
僕は持っている弁当を、彼女にまとめて渡すようになった。

「これさ、みんなで分けて」

僕がそう言って弁当の袋を差し出すと
彼女も最初のうちは怪訝そうな顔をしたけれど
やがて同じように僕に礼や挨拶をするようになった。

僕が彼女を選んだのは
老女が独りで食べ物を手に入れて行くのは大変だろうというのもあったし
小柄な女性であれば、独り占めなどをすることもないだろうと踏んだのもあった。
弁当というのはそう日持ちのするものではないから
5つも溜め込んでいても食べきれるものではない。

実際のところ、それによって彼女がホームレスの世界の中で
どういう存在になっていったのかは僕には分からない。

僕はただ弁当を運んで立ち去るだけで
会話のようなことは全くしなかったし
渡した後振り返ることさえもしなかった。

けれど、僕が渡した弁当を
彼女が周囲のホームレスに配っていることははっきりしていた。

他のホームレスは相変わらず
僕が通りがかるたびに挨拶をしてきたし
彼女が周囲のホームレスの輪の中にいることも多くなっていたからだ。

彼らは、僕が何者で
どんな理由で弁当を持ってきているかには
まず関心が無かっただろう。

僕は何も尋ねられなかったし
僕も何も尋ねなかった。
精神的な交流などというものは皆無だった。

別の場所で顔を合わせても
彼らは僕に気付かないだろうし
僕も彼らに気付かないだろう。

仕事が終わった時刻に弁当を持ち公園に行って帰る、
その繰り返しは半年以上続いた。

僕は新店舗に移ることになり
上の人間がどこかから連れてきた代わりの責任者に引継ぎをした。
弁当のことも単なる食べ残しの問題だけではなく
一応セキュリティの一つとして引き継いだ。

新しい責任者がちゃんと行っていたのかは分からない。

大して会話をしたわけでは無いけれど
僕よりも幾つか年下の彼は
子供が生まれたばかりだと聞いたから
誰か下っ端に持っていかせていたのかもしれないし
あるいは面倒臭がってそのまま捨ててしまっていたかもしれない。

セキュリティという部分は
放置しても何もなければ問題にはならない。
何か事件があって初めてああしておけば良かったと思うだけだ。

だから、別の店に移った僕は
そこまで口を挟むつもりも無かったし
現実的にそんな暇も無かった。

僕にとってはもう過ぎたことだった。

ところが、その店の話は、思わぬ形でまた僕に関わってきた。


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Author:omoteura
天鳳で日夜遊ぶ柏レイソルサポーター。

天鳳(鳳凰卓東風戦)の段位は現在八段。

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