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The Outcasts 外伝~An unidentified woman vol.5~

僕が移って一ヶ月もしないうちに、その店が摘発されたのだ。

そしてそれだけでなく
その新しい責任者が、既に一度執行猶予付きの判決を受けていて
まだその猶予期間中であることが分かったのだ。

通常、カジノで摘発された場合
従業員は「賭博開帳図利(またはその幇助)」の罪に問われる。
刑法186条2項に規定されている刑で3月以上5年以下の懲役が法定刑だが
初犯の場合はほとんど執行猶予を何年か付けてもらえる。

(ちなみに客は常習賭博の罪に問われるが
これはだいたい罰金刑で済む)

風俗営業法の営業許可を取ろうが
パチンコの換金で行われている「三店方式」を使おうが
摘発を免れることはできない。

三店方式を取ることで違法性が阻却されるわけではないことくらいは
業界関係者であれば誰でも知っていることだし
そのリスクを承知の上で、やっていることでもある。

パチンコの問題を争点に挙げて最高裁まで争えば
もしかしたらまた別の見解が示されるかもしれないが
カジノ業界でそんなことを個人的にする人間は皆無だ。

初犯であれば数年程度の執行猶予がつくのに
それ以上の歳月と数千万に上るであろう裁判費用を費やしてまで
負けるであろう裁判を争うのは馬鹿らしいからだ。

だから摘発を受けて執行猶予をもらったら
その時点でカジノの世界からは足を洗うのが普通だ。

けれど、中にはそうそう捕まらないだろうとたかをくくるのか
あるいは他に稼ぐ当てがないからなのか
執行猶予中であるにも関わらず
またカジノの世界に戻ってきてしまう者がいる。

昔のように額に入れ墨を入れられることもないわけで
そんなことは本人が言わないと分からないから
捕まってみて初めて周囲は知ることになる。

その時も、その男をあまり知らない僕らは

「あいつ弁当持ち(執行猶予中のことだ)だったんだ・・・」

などと驚いていた。

頭を抱えたのは上層部だった。
良く確認しておけばと言っても後の祭りだ。

この手の商売には必ず店に名義人がいる。
摘発された時にはその人間が主犯ということで
金主まで累が及ばないようになっているし
名義人になる人間もそれを承知の上でなる。

そしてそれ以外に摘発の現場にいた黒服やディーラーは
その幇助という共犯になる。

主犯であっても初犯であれば執行猶予が付くことが確実だし
ましてそれが幇助であれば
起訴猶予で済むことさえ考えられる。

けれど執行猶予中ということになれば話は別だ。

執行猶予中の再犯は執行猶予が取り消されるわけで
ほぼ間違いなく「お勤め」になる。

それ自体は本人の責任だけれど
どうせお勤めなら、ということでべらべら謳われてしまえば
他の人間にも影響してくることになる。

だから、そういう気を起こさないように
何とかしてやるから、という姿勢は見せないといけない。

上層部は私選の弁護士を用意し
本人にもきちんと接見させた。

弁護士が現場の実情に疎いというのと
上層部が法律関係に疎いという両方があって
接見から弁護士が戻ってくると
僕もその場に呼ばれた。

話題は当然その執行猶予中の男の話になる。

弁護士が言うのは、状況は非常に厳しいが
何とか情状酌量の余地があるという方向で持っていかないといけないということで
本人に幼い子供がいることなどを主張してみようとのことだった。

「まぁでもねえ・・・小さな子供がいるなら
なんでさっさと足を洗わなかったんだと言われてしまえばそれまでだしね・・」

弁護士はそう言うと腕組みをしながら

「表彰を受けてるとか何かボランティアをしたとか寄付をしたとかあればね、
まだだいぶ情状面が違うんだけど・・」

とつぶやいた。

その時、僕の脳裏にあることが蘇った。

「ホームレスに弁当の差し入れをしていたとかは
そういう奉仕活動とか善行みたいなものに入りますか?」

そう、僕が思い出したのは
ついこの間まで僕が毎日のように
公園まで持っていっていたケツ弁のことだった。

「どういうこと?」

弁護士が尋ねてくる。
僕は店で注文して余っていた弁当を
少なくともつい先月まではホームレスに差し入れていたことを説明した。

「うん、それ押してみよう。
その公園にまだホームレスいるかな?」

僕は弁護士を連れてその公園に行き
僕が弁当を渡していた老婆を見つけた。
もちろん途中で弁当をいくつか買って、だ。

僕は老婆に近づき弁当を差し出しながら言った。

「おばちゃん、ちょっと話あるんだけどさ・・」

公園の植え込みの陰にビニールシートを敷き
そこにぼんやりと座っていた老婆は
のろのろと鈍い動作で僕を見上げた。

「とりあえずこれみんなで分けて食べてよ」

僕はそう言って弁当を渡すと、弁護士に後を託し、
少し離れたところで弁護士と老婆のやり取りを見ていた。

実を言うと、それ以降の詳しい話は僕は知らない。

おそらく弁護士はいくらかの金を老婆に握らせ
弁当を差し入れしてもらっていたことを証言させたのだろう。

要するに、こういうことだ。

「被告は金を稼ぎたいという短絡的な思考の元、
悪いことだとは知りながら賭博開帳の幇助を行っていた。
がしかし、良心の呵責もあって
ホームレスという社会的弱者に差し入れも行っていた。
このように社会貢献の意識もある被告には、更正の余地は十分ある」

住所不定、無職の人間の証言が
どれくらい有効なものとして扱われるかも僕には分からない。
あの老婆が証言したのか、
あるいは金で釣られた他の誰かが証言台に立ったのかも知らない。

がしかし、裁判においては
目に見えるものがあればそれは効果を持つ。

例えば、精神的苦痛に対してはその苦痛を金銭に換算して
示談という目に見える結果を出すことで情状面を酌量してもらえるし
警察や消防から表彰された経歴があれば
遵法精神や社会貢献の意識がある人間としてまた酌量される。

それがその人間の本質かどうかは関係ないのだ。

だから、執行猶予中の再犯であっても
実際にはまだ救いようがある、と主張することで
裁判官の心証を良くしようとしたわけだ。

もちろんそれだけでは足りないだろう。
今後の職や生活の基礎をどうしていくか、という点で
きちんとした見通しのようなものを見せる。

知り合いに面倒を見てもらう予定ということにして
その知り合いにもまた証言してもらう。

本人も反省して更正しようとしているし
自分が責任を持って監督指導していくから
どうか寛大な~

とやるわけだ。

とはいえ、僕は裁判の傍聴に行ったわけでもないから
実際にどういう主張をし、どういう流れで裁判が進んだのかも知らないし
訊こうとも思わなかった。

僕が知っているのは、
結果として、本人に「ダブル執行猶予」という
少し珍しい温情判決が下ったことだけだ。

程なくして、僕はその世界から足を洗った。

僕は、自分がいる世界が
自分の利益になるものを全て利用する世界で
自分がその世界で生きる住人だということも
もちろん理解していた。

ただ、なんとなく
そろそろ潮時なんじゃないかと
自分が、利用できるものを全て利用し尽す前に
そうせざるを得ない立場になる前に
幸運が続いている間に、離れておくべきだろうと
実を言うと、僕はそのとき感じたのだ。

時々思い返す。

あの老婆は、今どうしているんだろうかと。
食べるものを手に入れることは出来ているんだろうかと。



<初めから読む>

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天鳳で日夜遊ぶ柏レイソルサポーター。

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