Polyhedron

フットボールと天鳳と、時々アンダーグラウンド。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

The Outcasts 30

「歌舞伎町は暖かいですよね。
って言ってもデコスケのことじゃないですよ、気温の話です。
寺一つ越えるたびに気温が一度違うって
いつもおれら言ってたんですけど」

あれは何年前だっただろうか。
ちょうど今の時期くらいの寒い日だった。

僕が外でシキテンをしているミズタニに
缶コーヒーを差し入れて、寒くないかと尋ねた時に
ミズタニは笑いながらそう言った。

寺というのは、新宿から郊外に出て行く時に通る地名だ。
高円寺→吉祥寺→国分寺と寺の付く地名が
等間隔ではないにしろ、一定の距離があることで
一つの目安になっているのだという。

まだ30をいくつも過ぎていない割にはあれこれと職を変わって
運転手もしていたことがあるというミズタニは
寺と言われて寺銭のことを連想し怪訝そうな顔をした僕に
そう教えてくれた。

中肉中背で外見的にはこれといった特徴の無いミズタニだったが
僕らが思いも寄らない物の見方をすることがあって
仕事の合間に外に出て雑談をするのは
僕にとってはなかなか面白い時間だった。

タクシー運転手として個人タクシーの開業を目指していたミズタニは
この世界の住人の多くと同じように、どこかで道を踏み外した。

もともとタクシー業界には博打好きは多い。
客待ちの列で競馬新聞を読み耽る運転手も少なくないし
麻雀やサイコロ、花札といったものに手を出す者も多い。

自分の稼ぎでやっている間はそれは別に構わない。
けれど、一回数枚のカードの数字に、数万、時には数十万を張って
勝った負けたを繰り返していれば、やがて金銭感覚は麻痺する。
ワンメーター650円だのとチマチマ稼ぐのが馬鹿馬鹿しくなってくる。

そしてたまたま勝ちが続いた時に
ずっと食っていけるんじゃないかという錯覚を起こし
仕事を辞めてしまう。

ダメだったらいつでも運転手に戻れるという思いもあるだろう。
二種免許さえあれば食うのには困らない。

もちろんそんな生活はいつまでもは続かない。
一人前の博徒を気取っていても
ほとんど全員、いつかはパンクする。
長く続ければ続けるほど確率というのは収束する。
それから逃れられる者はいない。

そして負けが込んでパンクしかけた時に
人が取る行動は様々だ。

どこまでも堕ちることを選ぶ者、
真っ当に仕事をする生活に戻る者、
あるいはハウス側として働くようになる者、
意識してか、あるいは無意識のうちにか、人はそうしてまた道を変える。

ミズタニも例外ではなかった。
けれど、ミズタニが選んだ道は、少しばかり変わっていた。

堕ちることを拒み、働くことも否定し、
ミズタニは頑としてこの世界で食うことをやめなかった。

食うと言っても、勝負を続けて勝ち残ろうとしたわけではない。
むしろミズタニは、勝負をしないことで勝ち残ろうとしたのだ。

そう、ミズタニはガジリになったのだ。

ガジリ、と呼ばれる人々について説明しておかねばなるまい。

必勝法があれば・・。
これでずっと食っていければ・・・。

ギャンブルに嵌まる人間は
その多くがそんなことを夢見る。

もちろんそれはただの夢だ。

人為的な操作が入り込まない限り
確率が収束して行く原理に抗うことはできない。

もしかしたらごく一部の幸運な誰かは
途中で大勝することもあるかもしれないが、
ギャンブルを止めて勝利を確定させない限り
彼が敗者に向かって歩いていることに変わりはない。

実のところ、カジノというところは、それを予定して営業している。
愛想を振りまき、食事や部屋代のサービス
(海外ではコンプと呼ばれる)をしても
十分に元が取れるという確信があるのだ。

そのコンプの額は、顧客一人一人で違う。
大きくベットする、あるいは長くベットする客には手厚く、
あまりベットしない、あるいはすぐ出て行くような客には小額だ。
平均ベット、プレイ時間などをきちんとチェックしているのだ。

ところが日本のアングラカジノでは違う。
どんな客であっても、最初にチップを買った時点でサービスが付く。
それも、平均ベットやプレイ時間に関わらず同額だ。

およそ10%~15%、場合によっては20%分のチップ、
つまり10万分のチップを買えば1~2万分のサービスが余計に貰える。
サービス分浮きからスタートできることになっているわけだ。

ベットすればするだけ負けるのが博打の仕組みだから
なるべくベットをせずにこの浮きを確保して帰ろうというのが
ガジリの根底にある考え方だ。

カジノ一軒だけではアウトコミッション(換金手数料)を
引かれたら幾らにもならないが
3、4軒、多ければ5軒回れば結構な額になる。

ただし、店側の黒服に露見すれば、出入りを断られたり
サービスチップの提供を断られたりするから、
監視の目をいかにかいくぐるかが大事になってくる。

当然のことながら、監視体制や断る基準は
店によって違うし時期によっても違う。
多少の赤字は覚悟の上で、宣伝の為にガジリを放任する時期もあれば
増えすぎたガジリを整理する時期もある。
もともと従業員が盆暗でチェックが緩い店もある。

そういう店を狙って彼らは入り込む。
なるべくならガジリだと思われないように振舞いながら
少しずつ少しずつ彼らは勝ちを積もらせていく。

もちろん、店側も黙って見ている訳ではない。
ある程度入客が確保できている店であれば
ガジリの存在など害悪でしかないから
客のベットを見てサービスや出入りを断るのだ。

長年業界にいると、一度断った客は
顔を見ただけでガジリだと思い出せるようになる。
そんな時は一度も打たせずに、新規での入店そのものを断るわけだ。

とは言え、僕はミズタニがガジリで凌いでいたことなど知らなかった。

僕がそれを知ったのは、春も間近に迫ったある夜のことだった。

その日店がやけに暇で、僕は外に出てミズタニと雑談をしていた。
ミズタニはたまたま通りかかったガジリをちらりと見ながら

「店長、あれGですよ、G」

と薄笑いを浮かべながら言った。

Gというのはガジリの頭文字だ。
インカムで店内と連絡を取る場合に使う符丁だ。
普通の客なら「ゲスト何名上がります」などと言い
ガジリなら「G何名」、不良や刑事臭い客なら「お客さん」と呼ぶ。
それによってドアを開けたり開けなかったりを決める。

「お客さん上がりました」

などと言われたら、ドアをホイホイ開けてはいけない。
カメラのモニターを注視して、見知った顔でなければ、
そのまま息を潜めて立ち去るのを待つ。

その判断は、基本的には入り口付近の隠しカメラで行うのだけれど
肉眼で見た場合とは異なって見えることもあるから
外で肉眼で見ているシキテンの判断は重要だ。

ミズタニが言ったそのガジリと思しき通行人は僕も知った顔で
最初から入れない客のリストにも入っていたが
パッと見てすぐに分かるあたりは
ミズタニが優秀なシキテンであることを示していた。

そしてそのガジリが見えなくなるのを見送ってから
ミズタニは苦笑いをしながら不意に呟いた。

「あいつらもね、ホント良くやりますよね・・。
まぁ俺も昔はああだったんですけどね」

「ああだったって?」

僕は問いかける。
その言葉が何を指しているのか分からなかったのだ。

「いや、ガジリ連中ですよ。
俺、一昨年までガジリで食ってたんです」

「え、マジで?」

正直言って意外だった。
ガジリというのは、基本的に楽をして金を稼ぎたい連中がやることだ。

浅ましいと言われようが乞食同然に蔑まれようが金を作った者が偉い、
そういう哲学で生きている彼らが
雇われの身になることなど滅多にない。
ましてシキテンのような気候に大きく影響される仕事は
冬場や悪天候の時は辛い。

彼らがそんな仕事をするとしたら
それは半端なガジリ方しかできないか
よほど凌ぎ方が下手なガジリということになる。

「もう食えなくなっちゃったの?」

僕は再びミズタニに問いかけた。
するとミズタニは首を横に振って

「いや、食えなくはなってなかったんですけどね・・」

そう呟いた後に、思い出話を語り始めた。

時折遠くを見るような目をしながらも
道を通る人にはしっかりと目を配りながら。

「運転手も辞めて、バカラばっかりやってて
やれ100万勝ったの200万負けたのってやってるうちに
金がどんどん回らなくなっていって
金貸しから早いのつまんでまでやってって。

で、金利入れるのだけでいっぱいいっぱいになって
いよいよもう飛ぶしかないかなって時に
ふと思ったんですよ。

ハウスから今まで負けた金取り返してやろうって。
多分3000万くらい負けてたと思います。
どんなことしてもそれ取り戻そうって。

でね、車から時計から全部売って金貸しに金返して
残った金が50万くらいでした。
それ元手にハウス食ってやるって思ったんです。

勝負して勝つのなんて絶対無理なのは分かってるんですよ。
バンカーコミッションあるんだし。
だったらいつも隅っこでコソコソガジってる奴らみたいに
俺もガジリになってやろうって。

ガジリの理屈は分かってました。
ただかっこ悪くて出来なかっただけでね。
見栄を捨ててしまえば何てことないんですよ」

ミズタニは少し自嘲気味な笑みを浮かべながら話し
僕はそれを黙って聞いていた。

「だいたいね、昼前くらいに起きるんです。
でね、まずベッドの中で携帯のメールをチェックです。
仲間からのメールがいくつか入っているから。

○○のイベントが終わってサービスが絞られた・・・
△△がリニューアルオープンしてイベントやるらしい・・・

そんなあちこちのハウスの情報を入ってきてるわけです。
もちろん自分が先に情報を手に入れれば自分も回します。
そのためだけの仲間ですから。

で、それを見ながらその日の計画を練ります。
どこの店からどう回るか、
一日に回れる店は多くて5,6軒だから効率は大事ですよね。

自分の部屋は明大前だったんで井の頭線で渋谷に出て、
渋谷を2軒回ってから池袋を3軒回ろうか、
新宿は最近サムいらしいから今日はパスだな、みたいな感じでしたね。

つったって、状況次第で新宿も回らないといけないこともあるんですけどね。
ノルマがこなせなかったり、行こうと思ってた店が閉めてたりとかで。

で、渋谷に着いたら行くのが大体百軒店のNでしたね。
理由は駅から近いのと、けっこうちゃんとした料理が出てくるからです。

基本的に、食事とタバコはカジノで調達するんです。
無駄な出費を控える、という発想っていうか
貰える物は何でも貰うという発想に近いですけど。

もちろんタバコはシガレットケースに4,5本だけ入れて、
残りのタバコはバッグの中に別にしておくんです。
いくらなんでも無くなる前に貰うのはマズいです。
店の人間に余計な反感を買うし、
タバコぐらいで出入りを断られるわけにはいかないですからね。

Nはテーブルが二つでしたけど、
もちろんミニマムが小さい方にしか座りません。
シュートの途中だったら必ず終わるまで待ちます。
中途半端なところで入ったら、自分では2シュートやったと思っても
このシュートが終わるまでやってくれって言われたりしますからね。

まぁNは結構流行ってたんで、ガジるのは楽でした。
大体大きいバランスのテーブルに客がいましたから。
潰れたら、また別の店を探さなくちゃいけなくなるから
店が流行るのはいいことです。

せいぜい頑張って利益を出してくれよ、
こっちはそのおこぼれで生活できれば十分だから、
なんて思いながらやってました。

20点買うと3点サービスが付いて
6デッキのシュートを2シュートってのがNのハウスルールでした。

普通って言えば普通なんですが、
来店ごとにスタンプを1つ押してくれて、
10個貯まればその次のお買い上げの時に20点で4点出てくるんです。

結局は20点で3・1のサービスということですよね。
こんな無差別のイベントを続けてて大丈夫なのかと思うんですけど
太い客がいればまぁ何とかなるんでしょう。
あるいは昔の俺みたいにアホみたいに張るバカな客とかね。

そんなサービスだからガジリは結構入ってました。
若い女のガジリなんか多かったです。
でも若い女は店もガジリって分かってても泳がせるんです。
そういうのが多い方が男の客は喜ぶから。
なんかパッと見て華やかじゃないですか。

オッサンってのは若い女にいいところを見せたいもんで
女に適当に「すごーい!」とか囃されると嬉しいんですよ。
だからついつい張りも大きくなっちゃうし
負けてもゴネたりしないようになりますよね。

だから店も甘めになるんでしょ。
ある意味共存共栄です。
店の黒服とできちゃうガジリの女もいるくらいですから。

もちろん一人だけ反発しても損なので、
こちらも適当に「ナイス!」などと囃してやりますよ。

なるべく雰囲気作りには協力してやるんです。
そうすると断られにくくなるわけです。
寄生してる奴に寄生するみたいでわけわかりませんけどね。
一緒には行動しませんけど」

確かに良く分かってる。

僕は心の中で感心した。
客の中には、ハウスに対して異常なまでの敵対心を燃やすタイプがいる。
何かとハウスのやることに不平不満を言うのだ。
だけでなく、周りの客を焚き付けたりもする。

そうするとどうしたって雰囲気はギスギスするから
あまり太い客でなければガジリでなくても断ってしまいたくなる。
ガジリっぽい張り方をしているという印象だけで断ったりすることもある。

同じ張り方をするなら、場を和ますようなタイプを選ぶのは当然なのだ。
若い女性が歓迎されるのもそういう理由からだ。

ミズタニは黒服の仕事などしたことは無いはずだし
ディーラーの仕事だって出来ないはずだ。
それなのに、店側の都合というものを理解しているというのは
ミズタニなりの観察眼があるのだろう。

客が来店する様子は全く無く、
僕とミズタニは路上でポケットに手を突っ込みながら
さらに話を続けた。

「で、どんな張り方してたの?」

僕は、ミズタニに尋ねた。

もちろん僕も、カジノの世界で長いことやってきているわけだから
ガジリの基本的なやり方は知っているのだけれど
その使い分けには少し興味があった。

「Nみたいにミニマムが$50ならベットの基本は$70前後でしたね。
10回に1,2回は張らずにルックします。
それでたまに1点ちょっと張るようにすれば、まず断られないです。

サービスの額とバカラの控除率1・2%を考えたら、
平均ベットを$80くらいまで上げても期待値は十分プラスでしょ。
ケチって断られては何にもならないですからね。

で、2シュートやったら、勝ってても負けててもアウトです。
まぁ滅多に負けませんけど、たまに負けることはあります。
控除率を超えないように打つわけですから
長い目で見れば絶対に勝てるんですが
その日その日で見れば負けることだってありますよね。

で、渋谷だったらそのままZに向かってました。
Zはサービスは20点で2点だったんですけど
サイコロ振って最大1点まで当たるイベントやってましたね。
8デッキを1シュートやればいいってのもこっちは楽でした。
その方があちこちの店を早く回れますから。

でもZはガジリ多かったですね。
それもかなり露骨なのが。
店のシステムが悪いのか、世の中が世知辛くなってるのか
ちょっとおれらには分かりませんけど。

ヘタクソなガジリってのは大体グループなんです。
理由は複数で来れば、キャッチボールできますからね」

キャッチボールというのはガジリ方の初歩で
二人組み以上でプレーヤーとバンカーに同額ベットする。
プレーヤーが勝てば、張っていないのと同じ状態でベットをしたことになるし
バンカーが勝っても5%のバンカーコミッションだけで済む。

ガジリというのはとにかく賭けてはダメなのだ。
そうやって賭けているふりをして
平均ベットを店の人間に分からないように下げようとするわけだ。
もちろんルックと言って、ベットをせずに一回流すこともする。

ただし、こっちもそんな手口は知っているので
よっぽどうまくやらないとあっという間にばれる。
ばれればその日だけで来店お断り、ということになる。
出入り禁止にはしないけれど、サービスの提供を断るのだ。
それだけでガジリは来なくなる。

「それで、ノルマとかは作ってたの?」

僕はさらにミズタニに訊いた。
人によるのだろうけれど、5軒必ず回るタイプと
一定額勝ったらその時点でその日は終わり、というタイプがいるらしく
僕はミズタニがどちらのタイプか尋ねたわけだ。

「ああ、一応5万勝ったら終了ってことにしてました。
ガジリ生活を始めてしばらくは、最低4軒必ず回ってたんですが
たとえば最初の2軒で目標額勝っちゃうと
気が緩んでその後負けることが多くて。

根が博打好きでしょ、ついその頃の気分に戻っちゃうんですね。
だから目標達成したらその時点で終わってました。
そしたら後は飲みに行ったりダラダラしたりでしたね」

気楽そうに見えるけれど、
先が見えないのは僕らと同じだ。
罪名こそ違えど、摘発されればやはり逮捕はされる。
ミズタニは、ガジリをどんな理由で止めたのだろうか。

「で、何でやめたの?どっかでパクられた?」

ミズタニは苦笑いしながら答えた。

「いや、パクられはしなかったです。
でも客でパクられたって高が知れてるじゃないですか。
常習賭博の量刑なんてせいぜい罰金が関の山です。
そりゃ20か30取られるわけですから痛いですけど
そういう理由じゃないです。

ガジリの生活をね、2年くらい続けたんです。
平均すれば一日4,5万、月に120万くらいは稼いでました。
ガジリって断られると思うかもしれないけど
俺みたいなパターンはなかなか断られないです。
今まで大負けしてた奴がガジリになったりするってパターンです。

なんたってそれまで散々負けてますからね、
断ったりすれば、だったら今までの負け分返せってなることも
やっぱり多いじゃないですか。

ならまぁこいつ一人ならしょうがないか、
もしかしたらそのうちまたハマって
ガジった分吐き出すかもしれないし、
なんて思ってるんじゃないですかね。

でも店の人間の腹の中はニコニコしてたって分かってます。

ああ、こいつ、昔はそこそこ張ってたのに
今じゃ落ちぶれてガジリになったんだな・・

そんな風に思われてるわけです。
もちろんそんなこと気にしてられません。
むしろそう思われてもいいからガジれればいいわけです。

でも、念のためというか、保険というか
新規オープンの店にも行くようにはしてました。
店の寿命も短いですしね、最近は。

でね、ある時池袋の新規オープンの店に行ったんです。
Oって店だったかな。
店自体は綺麗だったけど
俺が行った時は客はまぁ見事なくらいガジリばっかりでした。
上の人間が呼べる太い客がいなかったんでしょうね。

もちろん美味しくガジらせてもらいましたよ。
オープンイベントで20点で4点サービス付いてたかな。

それで俺が打ち始めた時にちょうどアウトした客が
昔からあっちこっちで顔をあわせてた奴でね、
向こうは俺がガジリになったなんて知らないから
調子良く話しかけてくるんですよ。

やれ30バラは打たないのかとか
そういう昔のイメージのまんまで。
こっちもそういうイメージの方が断られにくいから
適当にあしらってたんです。

で、そいつが帰った後、シュートの合間にね
黒服が挨拶なんかしてくるわけですよ。
ずいぶん若い奴だったけど、聞けば責任者だとかで。
それはまぁ感心しましたよ。

その若さで責任者任されるだけあって
客を掴もうという努力はしてるわけですから。
ただその努力があさって向いてるだけでね。

俺の張り方見てれば分かりそうなもんだけど
そういう感覚はあんまり持ってなかったんでしょうね。
教えてくれる人もいないんでしょうし。

ま、そいつにも適当に受け答えして
電話番号なんか交換しました。
こっちはもうラッキーってなもんですけどね。
そうなったらまず断ってこないですから。

店出た後にそいつから電話ありましたよ。
また寄って下さいって。
こいつホント盆暗だわってその時は笑っちゃいました。

でもガジリとしては、これは美味しいと思って通ってたんですが
やっぱりしばらくしたら潰れちゃいました。
ガジリによってたかって食われちゃったんですね。
ま、しょうがないです。

それでね、1年くらい後にね、
別の店でその若い黒服に会ったんです。
その日はノルマが達成できなくて
夜中まであちこち回ってました。
そういう日もあります。

今度は責任者じゃなくて、平の黒服って言ってましたけど
こっちとしては盆暗がいると思って内心喜んでたんです。
だからいつもよりちょっと露骨なガジリ方しました。
ミニマム中心で、ルックも多めにして。

何とか浮かせてアウトして帰ろうとしたらですね、
その黒服に呼び止められたんです。

あ、挨拶されるのかなって一瞬思ったんですが
出てきた言葉は意外なものでした。

申し訳有りませんが、お客様のベットだと
今後のサービスはカットさせていただきます・・

あちゃーって思いました。
何だよ、お前ちゃんと見てたのかよって。
一応軽く抗議もしました。
ちゃんとベットしてたよって。

いえ、ミニマム中心であのルック回数では無理です。

はっきりそう言われましたね。
もうちゃんと理解してるわけです。ガジリのやり方ってのを。
そしてそれを言いにくくても言うだけの器量もあるわけです。
普通はなかなか言えないですよ。本人が得するわけじゃないんだし。

そこまで言われて揉めたってみっともないだけだし
すごすごとビルの外に出たらもう明るいんですよ。
その明け方の薄明かりの中をとぼとぼ歩いてるうちに
急に惨めになってね。

あの若い黒服の兄ちゃんはちゃんと成長してるのに
俺は毎日同じこと繰り返して。
成長なんて全く無くて。

それまで開き直ってガジリやってきたわけですが
それがやけに堪えてね、
もう止め時かなってその時思いました。
そういうことが気になりだしたら、ガジリなんて耐えられないです。

でね、たまたま知り合った奴にシキテンの話もらって
それ以来シキテンやるようになりました。
別にシキテンが立派な仕事だって思ってるわけじゃないけど
一応は仕事ですからね。
ガジリに比べれば雲泥の差です。俺的には。

でもね、店長。
俺ね、もうすぐこの世界上がらせてもらいますよ。
そろそろ負けた分回収し終わると思うんで」

「全額取り戻せたの?」

僕は少し驚きながら尋ねた。

「ええ、ガジリで2500万、シキテンで500万残しました。
リベンジ成功ってやつです。
もう博打は飽きたんで、また運転手でもしますかね」

ミズタニが黙り、僕も黙った。
ミズタニがさっき口にした、明け方の薄明かるい時間になって
ほとんど人通りは無くなった通りを、カラスが飛び交っていた。

言葉通り、ミズタニはその後しばらくして店を辞めた。
いつの間にか携帯電話の番号も変えてしまっていて
連絡も付かなくなっていたし、どこかのカジノで見かけることもなかった。

今でも僕は、タクシーに乗るたびに運転手の名前をチェックする。
一つだけ、ミズタニに尋ねてみたいことがあるのだ。

必死に勝負を続けてヒリヒリしていた頃と
ガジリをやって、毎日金を増やしていた頃・・・、
どちらがが生きている実感があったのかと。
スポンサーサイト

Home

プロフィール

omoteura

Author:omoteura
天鳳で日夜遊ぶ柏レイソルサポーター。

天鳳(鳳凰卓東風戦)の段位は現在八段。

tenhou_prof_20100117.jpg

アングラ小説はリンクから。
Twitter=@foolishowl0425

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

月別アーカイブ

カテゴリ

リンク

検索フォーム

RSSリンクの表示

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。