Polyhedron

フットボールと天鳳と、時々アンダーグラウンド。

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The Outcasts 外伝~Shang-hai Honey

最初にコンタクトを取ってきたのは彼女の方だった。
名前は、クルミだったと思う。

アミューズメントカジノ、つまり、金銭を賭けない、
単なる遊技場としてのカジノで働いていると言うクルミは
どこかで僕の書く文章の存在を聞いたらしく
僕が入っていたSNSに簡単なメッセージを送ってきた。

メッセージを貰ってから、クルミのプロフィール欄を見にいくと、
クルミはまだ僕の半分ほどの年齢だった。
何でも、留学費用を稼ぎたくてアルバイトをしているのだと言う。
かつての僕と全く同じ動機だ。

カジノに存在するギャンブルの面白さに対して
若者らしい好奇心をあけすけに語っていたのだが、
それと同時に、僕がかつて属していた
アンダーグラウンドの世界に対しても多少の興味を持っていたようで
僕としてはまずそれを思い止まらせることを念頭に置きながら
クルミに対して返事を書いた。

アミューズメントカジノとアングラカジノでは
同じディーラーをやっていても
収入はおそらく2倍以上違うだろう。

そして、単なるゲームとしてディールしていくうちに
本気の客を相手に、本気のディールをしてみたいと思うようになる。
あるいは、自分でも本気で勝負を味わいたくなる。
これはどんな人間でも思うことだ。

料理でも武道でも、球技でも、
ママゴトをしているうちに、本物を味わいたくなる。
むしろ健全な好奇心を持っていればいるほど
そういう傾向は強いかもしれない。

けれど、カジノに関して言うのであれば
そちら側に踏み込んでしまえば
元の世界に戻るのは、そう簡単なことではない。

人は、目的が明確であればあるほど
それを実現させるための期間は短くしたいものだ。
であれば、より収入の良い仕事があれば
そちらに惹かれるのはむしろ当然ですらある。

僕自身、それを十分すぎるほど経験してきたのだ。

そして僕がクルミに対して感じた危惧は
業界に踏み込んでいくことだけではなかった。

アンダーグラウンドの世界に興味を示したクルミに対して
僕が感じた危惧。

それはクルミ自身の問題だった。

クルミはSNSのプロフィール欄に、
どこかで撮った自分のプリクラを載せていた。
そして、同じ欄にリンクを張った自分のブログで
ちょっとした芸能活動をしていることも明かしていた。

モデルかタレントか・・、それは僕には分からない。
けれど、そこに載っていた彼女のルックスは
確かにそういった活動をしていてもおかしくないレベルだった。

ショートカットの黒い髪、大きな瞳、白い肌・・
美少女というよりはチャーミングな小動物のようなクルミが
若い頃の僕の目の前にいたら
僕はドキドキして話すことも出来なかったかもしれない。

もちろん現実には、
クルミと僕は無機質なweb空間で繋がっているだけだし
僕はそこまでウブな少年でもない。

第一相手が誰であろうと、
ドキドキして言葉に詰まったら、
パソコンの前を一旦離れて
洗面所で顔でも洗ってくれば済むだけの話だ。

けれど、クルミがSNSとは言え巨大な世界で顔を晒し、
カジノをテーマとするいくつかのコミュニティに加入し、
自分の店にやってくる何人かの客と
フレンドリンクを張っていることに
僕は少なからず懸念を抱いた。

もちろん、それ自体はどれも悪いことではない。
そのことによって、世界が広がることもあるだろう。
クルミだけでなく、僕も、誰もがそうしている。
それがSNSの魅力であり、意義なのだ。

一方で、クルミの個人的な条件を考えれば
そのことによって、彼女がある種の煩わしさを背負うのも
ある意味においては必然だ。

クルミが望むと望まないとにかかわらず。

SNSというメディアを、出会い系のように使う者は多い。
定かではないけれど、専門の業者の数も相当多いだろう。
顔を合わせずに済む分、軽い気持ちで声をかける割合は
むしろ通常の世界よりも多いかもしれない。

僕はそれを必ずしも悪だとは言わない。

健康な男女が、異性に出会うことを求めるのは
自然なことであり、当然のことでもある。

若くて可愛い女の子がいれば
声をかけるのは男として礼儀だという価値観だって
世の中には歴然と存在する。

まして、加入しているコミュニティがカジノ関係で
アミューズメントカジノで働いていることを公言しているのだ。

カジノ業界の人間の男女関係の希薄さを考えれば
彼女にどれくらいのアプローチがあるか、想像に難くない。
そして、彼らにとって都合の良いことに
彼女はカジノの世界に興味があるのだ。

「こんな遊びじゃなくて、真剣勝負しにいこうよ」
「若いうちは社会勉強しなくちゃ」
「俺の顔が利く店に連れてってあげるよ」

メッセージで、コメントで、あるいはクルミの働く店で
そんな誘い文句が投げかけられているのが目に浮かぶようだ。

それにどう対応するかは、彼女の問題だが、
結果にはいくつかの類型があるだろう。

何事も無く、ちょっとしたスリルを楽しんで
カジノとも、相手とも程よい距離を保っていけるかもしれない。

最初はチビチビと遊んでいたのが
張る金額はどんどん大きくなり
最初は誰かと一緒でなければ行けなかったのが
一人でも行くようになってしまうかもしれない。

もしかしたら、イカサマに嵌められて、有り金どころか
巨額の借金を作ってしまうかもしれない。
場合によっては、水商売や風俗へ沈められるかもしれない。
クルミには、間違いなく「値が付く」はずだ。

アングラの世界で働くようになって
やがてどこかの店で摘発されて
ベントウ(執行猶予のことだ)でも貰うかもしれない。

相手の人間性が信頼できるかどうかも分からないし
仮に信頼できたとしても、相手も嵌められているかもしれない。
金か体のどちらかを、あるいはその両方を目当てにしていないなどと
一体誰に言えるというのだ。

クルミにカジノの世界の住人の本質が見抜けるとも思えなかったし、
イカサマに気付けるとも思えなかった。
彼女の自制心がどれくらいのものかなんて、分かるはずもなかった。

とは言え通常、僕はそういったケースではまず口を挟まない。
何も言わないし、止めようとも思わない。

クルミは自分の責任において顔を載せ、
自分の責任においてSNSをやりコミュニティに入って、
自分の責任において仕事をし、人間関係を作った。

僕などが何を言ったところで
堕ちる人間は堕ちていくし、
僕にはいちいち気にするほどの暇も甲斐性も無い。

クルミが望んだ結果になるかもしれないし
クルミはそれで幸せになるのかもしれない。

僕の知ったことではないのだ。

にもかかわらず、僕は言葉を尽くして
クルミにそのことを延々と説いた。

僕がクルミを放っておけなかった理由。

それはもちろん彼女のルックスもあったかもしれない。
可愛い子が堕ちていくのを見たい人間は少ない。
少なくとも、僕にはそういう趣味は無い。

一番の理由は、彼女の年齢だった。

クルミは僕の半分ほどの年齢と書いたが
年齢差で言えば、16歳離れていた。

僕はふと、16年前を思い起こし、
それが僕がアンダーグラウンドの世界に
足を踏み入れた年齢であることに気付いたのだ。

僕がこの世界に入った頃、この子は小学1年生か・・

そのことを考えると、
周りに、お節介を焼いてくれる存在がいることが
もしかしたら幸せなのかもしれないと思ったのだ。

君がやっている芸能関係の仕事も
アングラの世界でパクられちゃえば台無しなんだよ。

何も知らない相手に長々とそんな返事を寄越されたクルミが
どう思ったかは僕には知る由も無い。

けれど、結果として、クルミはアンダーグラウンドの世界を覗くことなく
程なくしてアミューズメントカジノの仕事を辞め、
プロフィールから顔写真を削除した。

この短編は「Outcast」を描いたものだけれど
そういう意味では、クルミは「Outcast」ではない。
外伝にしたのはそういう理由からだ。

その後しばらくの間、僕とクルミはweb上の遣り取りだけを続けた。
クルミは上海に留学することになったのだけれど
webの上のことだから、どこに住んでいようと関係は無かった。

僕は僕の書きたいことを書き、クルミはそれを読む。
クルミも上海での出来事などを書き、僕がそれを読む。
そんな関係がしばらく続いた。

クルミの記事に着くコメントが
どうも彼女を偶像化して賞賛するかのようなものが多いことには
ちょっとした違和感を覚えざるを得なかったけれど、
そういったコメント主を僕が現実に知っているわけではないから
それはもしかしたら僕の考えすぎだったのかもしれない。

けれどある日、クルミは忽然とwebの上から消えた。

ごく普通の生活をしている彼女の身の上に、
特に事件があったわけではないだろう。
摘発や破滅が賭けられるような生活ではない。

ひょっとしたら、プロフィールの画像を変えただけで
IDをそのままにしていたクルミに、かつての画像の記憶を元に
しつこく言い寄った人間もいるかもしれないが
その手のあしらいには慣れているのではないかとも思う。

まして今更アンダーグラウンドの世界に
足を踏み入れる気になったわけでも無いだろう。

たぶん、あの年代の女の子にありがちなように
クルミは飽きただけなのだろう。

ただ、僕は少しだけ気になっているのだ。

アカウントごと削除してしまいたくなるほど嫌なことが
クルミに降りかかっていはしないかと。
一瞬すれ違っただけに過ぎない僕が
心配するようなことではないのだけれど。
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Author:omoteura
天鳳で日夜遊ぶ柏レイソルサポーター。

天鳳(鳳凰卓東風戦)の段位は現在八段。

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Twitter=@foolishowl0425

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