Polyhedron

フットボールと天鳳と、時々アンダーグラウンド。

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昇降

まだ僕が若かった頃、
ほんの少しだけ競技麻雀をかじったことがある。

当時はまだプロ連盟は出来て間もない頃で
(たぶん7期か8期にしかなっていなかったはずだ)
競技麻雀の世界の中心は最高位戦だった。

必然的に最高位戦に所属しているプロに
いろいろ教わったり、あるいは観戦したりして
僕は競技麻雀に触れていくことになった。

その最高位戦のプロの中に
最高位戦のルールとは違うルールで打つ人たちがいた。

最高位戦の当時のルールは
まだ一発も裏ドラもない、今で言うところのクラシックルールだったけれど
それをさらに地味にしたルールで打っているということだった。

何しろ素点が関係ないというのだ。

「トップなら1昇、ラスならマイナス1降、2、3着はプラマイ0、それだけだよ」

そのルールを教えてくれたプロは
僕にそう説明してくれた。
そしてそこで打つプロたちが集う場に
僕を連れて行ってくれた。

それが僕と101の出会いだった。

「いやーついてないよ、
4回打って4回しかトップ取れないんだもん」

今でこそわりと陳腐な煽り文句になったかもしれないけど
僕がその台詞を初めて聞いたのもその場だった。

「謳いの西田」

なんて異名が付いていたプレイヤーだったけれど
どう反応していいか、当時の僕にはまるで思いつかず
曖昧に笑うことしか出来なかったことを覚えている。

ただ、このルール、
おそろしく息苦しいものだった。

何しろリーチがまずかからない。
ノーテン罰符がないから、
行けそうにないと思ったらみんなガンガン降りる。
文字通り鉄壁だ。

ノーテン罰符が無いということは
流局時に手牌を公開するという作業が無いということだ。
(リーチをかけていても聴牌を証明する必要も無い)

となるとリーチのメリットが下がることになる。
一発も裏もないから
足止めリーチというものの効力がほとんど無くなる。

役無しカンチャンで押すことも頻繁にある。
リーチをかけているつもりで押すわけだが
他家も当然それに対応していくことになる。

なんというか、巷のフリー麻雀とまるで違う麻雀がそこにあった。

当時の僕は、その辺のことを十分には理解し切れず
あまりコミットせずにやがて離れていってしまうことになるのだけれど
今は少しだけ、そのルールの面白さが分かる。

素点が関係なく、ラスだけが失うものがある、という点で
天鳳という順位戦に近い部分がかなりあるからだ。

ここに、一冊の本がある。
表題を「神眼の麻雀」という。

この本の著者である成岡という人を
僕はもちろん知らない。
ネット上では多少知っているけれど
それはここでは触れない。

書評には関係が無いから。

似たような側面を持つ鳳凰卓東風速卓というゲームにおいて
僕はできるだけシステマチックに打つことを目指している。
それは速卓という条件が出てくる場においては
半ば必然であると言ってもいいだろう。

読みに時間をかけてリソースを割くことよりも
一つ一つのシステム的な判断の精度や錬度を上げることに
時間やリソースを割くしかないからだ。

成岡は違う。

僕がコミットできなかった101順位戦に
成岡はコミットし続けた。
そしてその場において
見えないものを見ようとすることに
伏せられている山を牌を感じ取ることに、心血を注いできた。

この本には成岡のその、感じ取ろうとする精神の過程が書かれている。

論理でそれを読み解くことは難しいだろう。
だからどれだけそれを読んだところで
読者が何か具体的な論理を身につけることは出来まい。

技術論が書かれた本ではないからだ。

かといって、オカルト本でもない。
おそらく成岡は、システマチックに打てる部分を
かなり残したプレイヤーであるはずだ。
打とうと思えばいくらでもロジックに基づいて打てるだろう。

武道家が型の鍛錬を重ねて様々な型を体得したとして
その型通りに戦うのか、
あるいはその型を超えたところにある極意を目指すのか、
そんな感じを持ってもらえばいいのではないだろうか。

成岡は僕よりも少し年下だから
もしかしたら、25年前に交わっていたかもしれない。
101ルールで対戦し、対局の後に言葉を交わすことがあったかもしれない。

ほんのちょっとしたタイミングの違いで
交わらないままになってしまった打ち手の思考を
今僕は一冊の本で知ることが出来る。

ただの一度も打ったことの無い相手だけれど
彼が心血を注いだ対象を、僕は少しだけ、知っている。

昇ったり降りたりをただただ積み重ねてきたという意味で
天鳳の段位戦を打ち続けてきたプレイヤーに対するのと同じような共感を
成岡に抱くこともできるだろう。

論理とは程遠い、その情緒的な意味合いにおいてのみ
僕はこの本を推すことにする。
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Author:omoteura
天鳳で日夜遊ぶ柏レイソルサポーター。

天鳳(鳳凰卓東風戦)の段位は現在八段。

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